MOON PHASE 雑記

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「G線上の魔王」

るーすぼーい&有葉あかべぇ黄金コンビが贈る大作ヒューマンドラマ。名作と名高い、個人的にも殿堂入りしてる「車輪の国、向日葵の少女」との比較はどうしても避けられないんですが、ヒューマンドラマと言う視点ならば、『車輪』を越えたとは言わないけど、『車輪』以下とも言い切れない魅力があり、やって損はない名作と呼べる水準に達してる作品なのは確か。本作にも、叙述トリック、頭脳戦、ミステリー、サスペンスと言う側面はあります。しかし、命をかけた純愛ドラマと銘打ってるだけあって、“魔王”の正体は誰なのか、“魔王”の挑戦に主人公たちは勝つことが出来るのか、などと言った部分は本質ではないですね。特に、“魔王”の正体については、期待しすぎたせいもあるんでしょうけど、プレイヤーを勘違いさせるように誘導するギミックが露骨すぎて、逆にがっかりな出来になってしまったように思います。宇佐美と言う苗字を考えないようにしていた事で、それに付随した記憶も記憶の片隅に追いやってしまっていたとフォローはあったものの、京介が頭痛を起こしたり物忘れが激しい理由とタイミングの良さは、結局ミスリードの為だけのご都合設定のまま放置されてしまったし。また、命をかけた純愛ドラマと言うテーマに純粋に添ってるのは、ハルルートのみ。そのハルルートにしても、“純愛を育む”と言う点に於いては、あまり命をかけてたわけではないのだけど…。「車輪の国、向日葵の少女」と同じく、ヒロイン脱落制の時系列順シナリオなので、個別ルートに入らない場合の、他のヒロインの扱いは泣ける。花音なんて、本人ルート外だと大会に勝って外国に飛んで、そのまま最後まで忘れられちゃうからなあ。もう少し第五章で絡んで欲しかったのが本音。京介とハルの純愛劇なんだから、他の邪魔を入れない方が良いと言う意見もあるかもしれませんが。個別ルートについて少し語ると、基本的に京介はヒロインが成長するきっかけを与えるだけの存在で、後はヒロインが勝手に成長して解決してしまいます。椿姫ルートは、騙されていると知ってもなお自分を信じて慕ってくれる、純粋な『善』と向き合った時、『悪』はそれをどう受け入れるのかどうか?最初に分岐するルートなので、京介が金への固執から愛情に芽生えるまでにタメが足りず、シナリオそのものも短かった。花音ルートは、盲目的でどこか間違ってしまった愛情を、どんなに表面的に嫌悪していても、根っこの部分では嫌うことは出来ず、全てを受け入れた時、人間関係に及ぼす変化とは何か?ハル以外の個別ルートでは、花音が一番良かったかな。不遜な態度を取り続けていた花音が、結果を恐れずただ母の為に滑り続けたプログラムと、その後の会見は作中でも屈指の名シーン。水羽ルートは、付き合うまでのツンデレ破壊力の高さは折り紙付きですが、ユキ殺人失踪で3年後と言う超展開には、さすがに置いて行かれてしまった。自分が目標にしていたユキのように成長しても意味はなく、水羽は水羽として成長して欲しかったのに。そして、メインルートと言うかトゥルールートと言えるハルルートについて。愛情を捨てて金に縋った殺人犯の息子と、復讐に捕らわれ絶望的なまでの恋をしてしまった被害者の娘が、どうしようもない極限状態に晒された時、如何なる選択をしたのか。前に書いた「ef - the latter tale.」のテーマとも通じる所があると思うけど、こちらの方がエンターテイメントに徹してる。第4章終盤の、京介の部屋でのハルの告白から最終章までは、本当に手を休める場所が無いぐらいの盛り上がりで感心しました。京介の格好良さも異常。
†大好きなんだよ、ずっとずっと、好きだったんだよ!
ハルの神様への懇願と併せて、ここで完全にやられてしまいましたよ。それから8年間、ハルが何を想って待ち続けたのかは想像に難くないですね。京介の裁判にハルが一度も行かなかったのは、ヴァイオリニストとして再起して京介の願いを叶える為と、京介の子供がお腹にいる事を知った状態で塀の中に閉じ込めたく無かったからの両方でしょう。個人的には、終わった幸せを受け入れて前に進むことを選んだ夕と優子よりも、全ての試練を乗り越えて、最初からやり直す事を選んだ(選ばされた)京介とハルの方が好きだ。ハルルートでは、結局最後まで“魔王”の手の平で踊らされて一度も勝利してないんだけど、そこで活きてくるのが他のヒロインのルート。口では色々な策があると言っていた“魔王”の計画は、実の所、かなり京介とハルの行動に依存してる。だから、こんな壮大な計画を準備してたにも関わらず、京介がハル以外のヒロインと愛に目覚めた時点で“魔王”は手を退いてしまうので、京介たちは戦わずして“魔王”に勝ったと言えるのではないかと。色々な『悪』の美学が描かれてたけど、純粋な『愛』には勝てなかったと。まあ、こじつけだけどさ。ラスト、京介とハルの再会で幕引きは、区切りとしてはここしかないだろうし、殺人犯の娘となってしまったあの子の未来に不安は残るけど、あの2人なら負けないと信じるしかないか。それとも、後日談はファンディスクですか?あと、あの子の名前は清美派?春派?それと、“魔王”の中の人的に、独立セントラル街の国名は『合○国日本』に一票。

ところで、余談ですが、「媚肉の香り〜ネトリネトラレヤリヤラレ〜」の乙葉エンドでも使われてた服役生活ネタは、引っ越しなどありきたりな展開に変わる、新しい別離展開の素材として定着する可能性はあるだろうか?凄く扱いが難しい素材だと思うけど、別れの重みが違うよな。